親の介護が急に始まったとき、多くの方がまず困るのは「何から手をつければいいのか分からない」ということです。仕事を休むべきなのか、誰に相談すればいいのか、会社にはいつ伝えるべきなのか。
私は佐賀市で居宅介護支援事業所の管理者をしている主任ケアマネジャーで、産業ケアマネとして企業の両立支援にも携わっています。介護の現場と職場の両方を見てきた立場から、佐賀県で働きながら介護をすることになった方と、従業員から相談を受けた企業のご担当者に向けて、最初の一歩を整理します。
・最初の相談先は、介護を受ける方が住む市町村の地域包括支援センター(相談無料)
・介護休業(93日)・介護休暇(年5日)などを組み合わせれば、仕事を続けながら介護の体制をつくれます
・企業には2025年4月から、個別の周知・意向確認や雇用環境の整備が義務づけられています
介護が始まったら、最初の1週間でやること
入院や転倒など、介護は突然始まることがほとんどです。慌ただしい中でも、最初の1週間で次のことを押さえておくと、その後がずっと楽になります。
- 本人の様子を書き留める:できなくなったこと、困っていること、いつから変わったか。相談の場でそのまま使えます
- 地域包括支援センターに電話する:介護を受ける方(親)の住所地のセンターです。家族が遠方に住んでいても電話で相談できます
- かかりつけ医を確認する:要介護認定には主治医の意見書が必要です
- 勤務先の制度を確認し、上司か人事に「まず状況だけ」伝える:就業規則の介護休業・介護休暇の欄を見ておきます
- 家族で役割を話し合う:誰が窓口になるか、誰がどの曜日に動けるか。全部を一人で担わない前提で
最初の相談先は「地域包括支援センター」
介護が必要かもしれないと感じたとき、最初の窓口は地域包括支援センターです。市町村が設置している公的な相談窓口で、保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーが配置されています。
要介護認定の申請の相談、介護サービスの説明、本人・家族の状況に応じた助言を受けられます。相談は無料で、まだ認定を受けていない段階や「介護が必要かどうか分からない」段階でも構いません。
佐賀県内の窓口の探し方
佐賀県では、介護保険を複数の市町でまとめて運営している地域があります。
- 佐賀市・多久市・小城市・神埼市・吉野ヶ里町:介護保険は「佐賀中部広域連合」が運営しています。この地域の地域包括支援センターは「おたっしゃ本舗」という愛称で、地区ごとに担当が決まっています
- 鳥栖市・基山町・上峰町・みやき町:介護保険は「鳥栖地区広域市町村圏組合」が運営しています
- そのほかの市町:それぞれの市役所・町役場の介護保険の担当課が案内しています
要介護認定の流れ
介護保険のサービスを使うには、原則として要介護認定を受ける必要があります。流れは次のとおりです。
- 申請:市町(広域連合)の窓口に申請します。本人・家族のほか、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所が代わりに手続きできます
- 認定調査:調査員が自宅などを訪問し、心身の状態を聞き取ります。ふだんの様子をよく知る家族が立ち会うと、実態が伝わりやすくなります
- 主治医意見書:市町から主治医に意見書の作成が依頼されます
- 審査・判定:介護認定審査会で、要支援1・2、要介護1〜5、非該当のいずれかが判定されます
- 結果の通知:原則として申請から30日以内に届きます
- ケアプランの作成:要介護の場合はケアマネジャー(居宅介護支援事業所)、要支援の場合は主に地域包括支援センターと一緒に、どのサービスを使うかを決めます
認定調査の日は、仕事を休んで立ち会う方が多い場面です。後で説明する介護休暇(時間単位でも取得可)が使えます。
働きながら使える制度
介護のために仕事を辞める必要は、多くの場合ありません。育児・介護休業法には、働きながら介護をするための制度が用意されています。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 介護休業 | 対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して取得できます |
| 介護休暇 | 対象家族1人につき年5日(2人以上なら年10日)。1日単位または時間単位で取得できます |
| 所定外労働の制限 | 申し出により、残業を免除してもらえます |
| 時間外労働の制限 | 時間外労働を月24時間・年150時間までに制限できます |
| 深夜業の制限 | 午後10時から午前5時までの就業を制限できます |
| 短時間勤務等の措置 | 会社は、短時間勤務・フレックスタイム・時差出勤・介護サービス費用の助成などのいずれかを用意する必要があります。利用開始から3年以上の間に2回以上利用できます |
| 介護休業給付金 | 要件を満たせば、雇用保険から休業開始時の賃金の67%(上限あり)が支給されます。手続きは原則として勤務先を通じてハローワークに行います |
介護休業は「自分が介護に専念するための休み」ではない
誤解されやすいのですが、介護休業は介護の体制を整えるための準備期間、と考えるのが実態に合っています。93日で介護が終わるわけではないからです。
休業中に、要介護認定の申請、ケアマネジャーとの打ち合わせ、サービス事業所の見学、家族の役割分担などを進め、「自分がいなくても回る仕組み」をつくる。そのうえで職場に戻る、という使い方をおすすめしています。
制度ごとの役割も、この考え方で整理すると分かりやすくなります。
- 介護休業:介護の体制をつくるために、まとまった期間休む
- 介護休暇:通院の付き添いや手続きなど、スポットで必要な用事に使う
- 残業・深夜業の制限、短時間勤務など:日常的に続く介護に、働き方を合わせる
知っておきたい制度のポイント
- 要介護認定を受けていなくても使えます:対象は「けがや病気、障害により、2週間以上にわたって常に介護が必要な状態」の家族です。要介護2以上であれば該当するほか、認定を受けていなくても、歩行・排泄・食事などの状態から判断する国の基準に当てはまれば対象になります
- 対象になる家族の範囲:配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。同居していなくても対象です
- 家族が入院中でも使える場合があります:入院中でも、本人が身の回りの世話などを担う必要があれば、介護休業の対象になりえます
- 介護する家族が2人いれば、それぞれ93日:日数は対象家族1人ごとに数えます
- 介護休業の申し出は、原則として開始の2週間前まで:急に必要になって2週間を切っても、会社は申し出を断れません(開始日を調整されることはあります)。医師の診断書の提出を必ず求める、といった取り扱いもできません
- 介護休暇は口頭でも申し出ができます:当日の申し出でも取得を認める必要があり、会社は年次有給休暇のように時季を変更させることはできません。有給か無給かは会社の定めによります
- 残業・時間外・深夜業の制限は、介護が続くかぎり何度でも請求できます
- 制度を利用したことを理由に、解雇などの不利益な取り扱いをすることは禁止されています。上司や同僚からのハラスメントを防ぐ措置も、会社に義務づけられています
- 転勤を命じるときは、介護の状況への配慮が会社に求められています
企業に2025年4月から義務づけられたこと
家族の介護を理由に仕事を辞める人は、年間約10.6万人にのぼります(総務省「令和4年就業構造基本調査」)。さらに経済産業省の推計では、2030年には家族を介護する人の約4割、約318万人が仕事をしながら介護をする「ビジネスケアラー」になり、仕事と介護の両立が難しいことによる経済損失は約9.1兆円にのぼる見込みです。
こうした状況を受けて、育児・介護休業法の改正により、2025年4月から企業には次の対応が義務づけられました。
1. 介護に直面した従業員への個別の周知・意向確認
従業員から「家族の介護が必要になった」という申し出があったとき、会社は制度を個別に知らせ、利用するかどうかの意向を確認しなければなりません。
- 知らせる内容:介護休業などの両立支援制度、申し出先、介護休業給付金について
- 方法:面談(オンライン可)、書面の交付、FAX・電子メールなど(FAX・電子メールは本人が希望した場合)
- 介護の申し出は口頭でも受け付ける必要があります(会社が様式を決める場合は、あらかじめ示しておきます)
- 制度の利用を控えさせるような伝え方は認められません。会社から委任されていれば、直属の上司が行っても構いませんが、上司にも制度の趣旨を伝えておくことが大切です
2. 介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供
介護が始まる前から、制度について知らせておくことも義務になりました。40歳は、介護保険の第2号被保険者になる年齢です。
- 時期:40歳に達する日の属する年度の1年間、または40歳に達した日の翌日から1年間のいずれか
- 内容:個別周知と同じ3点。あわせて介護保険制度についても知らせることが望ましいとされています
- 年度の初めなどに対象者を集めて、まとめて説明会を行うこともできます。どちらの時期で行うかを決めて、毎年同じ時期に実施すると漏れを防げます
3. 両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備
次のいずれかの措置を講じる必要があります。
- 介護休業・両立支援制度に関する研修の実施
- 相談体制の整備(相談窓口の設置)
- 自社の従業員の制度利用事例の収集・提供
- 制度の利用促進に関する方針の周知
いずれか1つで義務は満たせますが、複数を組み合わせるほうが効果的です。気をつけたいのは、資料や動画を掲示板に載せたり配ったりするだけでは「研修」にならないこと、相談窓口は形だけでなく、実際に対応できる状態にして周知する必要があることです。研修は、少なくとも管理職が受けたことのある状態にしておくことが求められています。
そのほかの変更
- 介護休暇について、労使協定で対象外にできる従業員から「継続雇用期間6か月未満」がなくなりました(「週の所定労働日数が2日以下」は引き続き対象外にできます)
- 介護をする従業員がテレワークを選べるようにすることが、会社の努力義務になりました
「制度はあるが使われていない」という状態が、いちばん危ういと感じています。従業員は、制度があることを知らないか、知っていても言い出せないことが多いからです。義務への対応を「書類をそろえること」で終わらせず、実際に相談が出てくる状態をつくることが大切です。
企業がまず取り組むこと
経済産業省の「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」は、企業の取り組みを3つの段階で示しています。
- 経営層のコミットメント:会社として取り組む姿勢を示す
- 実態の把握:従業員が今どういう状況にあるかを知る
- 情報発信:制度と相談先を、繰り返し伝える
順番が大切です。実態を把握しないまま制度だけ整えても、現場では使われません。逆に、経営層が「介護で辞めさせない」と明言すると、相談が出てくるようになります。
小さな会社でも、明日からできること
- 社内アンケートで「今、介護をしているか」「5年以内に介護が始まりそうか」「制度を知っているか」を聞く(無記名でも構いません)
- 相談窓口になる人を1人決めて、社内に名前を知らせる
- 40歳の従業員に、介護保険と会社の制度をまとめた1枚の資料を渡す
- 年に1回、短い社内研修で「介護が始まったら最初にやること」を共有する
働く家族とケアマネジャーの付き合い方
介護サービスが始まると、家族はケアマネジャーとやり取りすることになります。ケアマネジャーとして働く家族の方と接する中で、次のことを最初に伝えてもらえると、両立がぐっとしやすくなると感じています。
- 勤務の時間帯と、連絡が取りやすい時間・手段:電話が取れない時間帯があれば、最初に伝えておきます
- 「仕事を続けたい」という意向:ケアプランは、本人の状態だけでなく家族の状況も踏まえて作るものです。働き続けたいという希望は、遠慮せず伝えてください
- 日程の相談:担当者会議や訪問の日程は、勤務に合わせて相談できることがあります。対応は事業所によって異なるため、早めに相談を
介護と仕事のどちらかを我慢する前提で考えず、両方を続ける前提でケアマネジャーと一緒に組み立てていく。それが長く続けるためのコツです。
産業ケアマネとは
産業ケアマネは、介護の専門知識を持つ立場から、企業の側に立って仕事と介護の両立を支援する専門職です。介護の現場で使われる制度やサービスと、職場の制度や働き方の両方を分かったうえで、企業と従業員の間をつなぎます。
| ケアマネジャー | 要介護認定を受けた方を担当し、介護サービスの計画(ケアプラン)をつくる専門職。支援の対象は、介護を受けるご本人とご家族です |
|---|---|
| 産業ケアマネ | 企業で働く従業員を対象に、「仕事と介護の両立」を支援する専門職。支援の対象は、企業と、そこで働く従業員です |
両方の立場を持っていると、「介護の現場で実際に何が起きるか」を踏まえて、職場の制度や働き方を一緒に考えることができます。
Link Circleの両立支援でできること
産業ケアマネの支援は、職場全体に向けた「チーム支援」(アンケートやセミナーによる介護の学びと職場の風土づくり)と、従業員一人ひとりに向けた「個人支援」(相談窓口と個別相談で、両立の方法を一緒に考える)の2本立てです。
- 従業員の実態把握アンケート:厚生労働省の資料をもとに、介護の現場の知見を加えた調査票で、従業員の介護の状況や今後の見込みを把握します。個人が特定されない形で集計し、人事の判断材料になる形でお返しします
- 相談窓口の設置:公式LINEなどを使い、従業員が介護の悩みを気軽に相談できる窓口を整えます
- 社内セミナー:介護保険制度、介護にかかるお金、仕事と介護の両立、いつか来るかもしれない介護への心構えなど。ケアマネジャーとして関わってきた事例をもとに、自分ごととして考えられる内容にしています
- 個別面談:対面・オンラインで、従業員の方の家族介護の悩みを聞き取り、両立のための具体的な助言を行います
- 制度づくりの支援:2025年4月施行の義務への対応の整理、管理職向けの研修、介護について気軽に話せる「介護の茶話会」など
ひとりで抱えないために
介護は、数年単位で続くことが多く、10年を超えることもあります。その間ずっと全力では続きません。
だからこそ、早い段階で相談先をつくっておくことをおすすめしています。地域包括支援センター、ケアマネジャー、勤務先の人事、そして必要なら私たちのような外部の専門家。相談先は、複数あって構いません。
Link Circle株式会社は、佐賀県神埼郡吉野ヶ里町を拠点に、吉野ヶ里町・神埼市・佐賀市・上峰町・みやき町・鳥栖市・小城市の企業へうかがい、仕事と介護の両立支援を行っています。企業向けの制度整備・社内セミナーのほか、従業員の方ご本人からのご相談はオンラインでも承っています。